伝統を支える職人たち

木材の風合いを活かす
塗装が基本。
木目を見せることを前提に、
本来の色味に合わせて
思い描いた
色のイメージに仕上げます。

塗装 井上俊介

塗装や研磨、蒔絵の装飾、デザイン案の作成などを行い、厨子の美観を定める役割を担うのが、2021年に始動した装飾美術部になります。私が専門に担当するのは塗装です。開発の部署と連携して、厨子の色の提案を行うとともに、作家やデザイナーからの“赤みを強く”などの意見をもとにブラッシュアップしながら、塗装設計をしていきます。アルテマイスターでは木材を活かす塗装が基本なので、木目を見せることを前提に、素材の色味によって色の出方やツヤが変わってくることも考慮しながら、思い描く色のイメージに合わせて塗装を仕上げていきます。素材をただキレイに見せるのでなく、工芸的な美観、美意識も重視しながら、日々塗装を行っています。

現代の厨子には、
さりげない存在感と上質感が
求められています。

洋式のライフスタイルが主流になり、照明の光が部屋の隅々まで照らすようになった現代では、厨子に適した塗装の色艶も昔とは違います。

かつての仏壇は和室や仏間に置かれ、大きくて立派で存在感があり、よりキラキラ、ツヤツヤ、ピカピカしているほうが価値があると考えられていました。

現代の厨子はそれとは逆に生活の中心となるリビングに置かれることが多く、神聖感は求められますが、だからといってそれを主張してほしいわけではなく、さりげない存在感がありながら上質なものが求められていると感じます。仏壇に比べて装飾が少なく、表面が真っ平になっているなどデザインもシンプルです。その分、塗装のムラなどが目立ちやすいため、アルテマイスターの厨子作りには高い技術力が求められるんです。

目指すのは
工業と工芸の間を
意識した塗装設計です。

最近では量産に向けて塗装の自動化プロジェクトも進行しています。それが実現すれば、誰にでもできることは機械が担当し、我々は装飾を施したり微妙な色味の調整など、より付加価値の高い作業に集中できるようになるはずです。

我々のメンバーには、私を含めて現役の作家としても活動している者が複数名います。作家として得た評価は、時代が共有する美しいものや価値観を見つけ出すヒントになりますし、それが厨子の製作にもつながっていると感じます。目指すのは工業と工芸の間を意識した塗装設計です。

それが合っているのかどうかは、これからの世の中の反応から判断するしかありません。厨子は今後一般的なものとしてどこまで受け入れられるのか。すぐに答えが出ないからこそおもしろいんです。

井上俊介

2009年入社。塗装設計を担当。2021年より装飾美術部 部門長を務める。